第4回「愚直なくらい忘れていく生き物」
2013/05/02
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前回までのあらすじ
絶対に笑ってはいけない「先生サヨナラの会」で、
思わず笑ってしまったタツヤとケン。
全校生徒の前でブチ回されるという不名誉な出来事から…。
夜が明けた。
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次の日の朝
「おっす」
遅刻ギリギリの時間、ケンがタツヤに声をかける。
「おう!」
誠に簡単な朝の挨拶を済ませると、今日もこの話題に尽きんとばかりに
昨日の話を続けた。
「なんか知らんが、殴られてから耳の奥がかゆいんよ!」
と左ほほからコメカミ、そして耳を触りながらタツヤは言った。
それを聞くとケンは、
「そう言われたら俺もかゆいわ」
本当かどうかは知らないが、本人が言うのだからきっとかゆいのだ。
「くそノギマがっ!」
チャイムが鳴る頃、二人は保健室にいた。
保健室の美奈子先生は唯一僕らの味方だ。
僕達の話す先生や学校への不満や怒りを聞いては、いつも笑ってくれていた。
耳のかゆみを伝えると、耳かきか何かで耳をほじられ、
少し様子を見るという治療方針で教室へと向かわされた。
既にチャイムは鳴っていたが、二人には「保健室へ行った」という大義名分があった。
それを掲げて教室の戸を開けたつもりだったが、誤算だった。
「おはようございます、保健室に行っていました」
もう一人も同じく続いたのだが…。
この時既に、担任のキシモト先生は何かを見抜いていた。
「保健室言うのは、お前ら二人が、朝からガン首揃えて行くトコか?」
(↑※ちなみにこの問いについて、30歳を過ぎた今でも正しい答えを見つけられない。)
「朝から、どこが悪いんか言うてみぃや!」
キシモト先生は小柄な女性の教師なのだが、怒ると声も大きく迫力がある。
「耳がかゆかったんで。」
「耳がかゆいんなら自分でかけや!耳かき貸しちゃろーか!」
まあおっしゃる通りなのだが、こちらにはまだ隠し兵器があった。
「昨日殴られてから、ずっと耳の奥がかゆかったけん。気になって…」
この言い訳でキシモト先生の怒りは沸点に達した。
「殴られたせいで、耳がかゆーなった言うんか?」
「ほいたら、もっと殴られて来いや!おかしい頭も治るかも知れんで!」
「なーにが殴られて耳がかゆいな!チャンチャラおかしいわい」
と、まあ昨日に引き続き散々な二人である。
保健室は誰のための部屋であるだ、
言い訳する事が男らしくないだの「くそ味噌」に言われたあげく、
出席簿の角で一撃を食らい、二人は席に着かされた。
一晩寝てやっと忘れかけていた昨日の怒りも、
この出来事で一時的に倍増した。
しかし、今後の活動方針を考え直さざるを得ないまでに追い込まれた二人だったが、
一時間目の授業が終わる頃には反省の色というものは、全く見られなかったと他の生徒はいう。
「どんなに恥ずかしく、悔しい出来事も、一晩眠れば忘れられる。by タツヤ」
いつからだろう、そんな脳のメカニズムに違和感を覚えなくなったのは、
ほっぺたの痛みはおろか、全校生徒の前で先生にブチ回された事さえ
時間が経過するにつれ、二人のメモリーから完全に削除されていく。
そして、一つだけこの世界に謎が残るとするならば…。
あの時、なぜバボは笑っていたのだろうか???
そんなどーでもいい謎に迫る。
次回、80's生誕少年「仁方のチョロ 、それぞれの大休憩」
(※エイティーズせいたんしょうねん にがたのチョロ それぞれのだいきゅうけい)
ご期待下さい。
【次回へ続く】
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